甲状腺は、いわゆる「のどぼとけ」(甲状腺軟骨先端)のすぐ下にある、重さ10~20g程度の小さな臓器で、全身の新陳代謝や成長の促進にかかわるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌しています。蝶が羽根を広げたような形をしていて、右葉と左葉からなり、気管を取り囲むように位置しています。
以下は、甲状腺疾患の主なものについて説明します。
甲状腺のはたらきが活発な状態、すなわち甲状腺ホルモンの分泌が盛んな状態を、甲状腺機能亢進症と言います。別名バセドウ病とも呼ばれます。
症状 | 甲状腺が腫れる、食べても食べてもやせてしまう、疲れやすい、よく眠れない、心臓がどきどきするなどの動悸、汗をかきやすい、下痢しやすい、生理がなかなか来ない(女性)といった症状がみられます。 |
---|---|
検査 | 血液検査やラジオアイソトープを用いた画像検査で診断します。 |
治療 | 薬物療法、ラジオアイソトープ療法、手術療法の3つがあります。 |
甲状腺からのホルモンの分泌が悪くなった状態です。
症状 | 疲れやすい、寒さに弱い、むくみがち、体重が増える、声がかすれる、動作が緩慢、肌が乾燥しやすい、毛が抜ける、便秘、生理が不規則、不妊・流産しやすいなど、極めて多様です。 |
---|---|
検査 | 血液検査によって甲状腺ホルモン値を調べます。甲状腺ホルモン値が正常よりも低ければ甲状腺機能低下症と診断されます。 |
治療 | 甲状腺ホルモンの薬を服用します。少ない量から飲み始め、甲状腺ホルモン値の正常化を目標に徐々に増やしていきます。その後は維持量を生涯続けるケースが多くなります。 |
甲状腺は体の新陳代謝を調節するのに大切なはたらきをする甲状腺ホルモンを産生しています。甲状腺腫瘍の多くは良性腫瘍なのですが、悪性腫瘍もみられ、その種類には、さまざまなものがあります。
症状 | 多くは甲状腺の腫れ以外には自覚症状がありません。ただ悪性度の高いタイプのがんでは、甲状腺の腫れが急速に大きくなり、痛みや発熱が起こります。さらに進行すると、周囲を圧迫して物が飲み込みにくくなったり、呼吸困難が生じたりもします。 |
---|---|
検査 | 血液検査や超音波検査、CTなどの画像検査、さらに穿刺吸引細胞診などが行われます。 |
治療 | 手術が基本です。タイプによっては、手術や放射線治療、抗がん薬などを組み合わせた集学的治療が行われます。 |
頭頸部領域にある臓器は、それぞれが異なるはたらきをしており、そのため腫瘍の発生部位によって、さまざまな症状が現れてきます。したがって治療にあたっては腫瘍の種類だけでなく、発生部位に応じた適切な治療法を選択する必要があります。以下に、頭頸部の腫瘍の主なものについて説明します。
舌がん、口腔底がんなど、口の中に出来るがんです。
症状 | しこりが出来、ときに出血や痛みをともないます。病期が進むにつれて咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ:飲み込み)、さらには発音が障害されるほか、口が開けづらくなったりします。 |
---|---|
検査 | 血液検査やラジオアイソトープを用いた画像検査で診断します。 |
治療 | 手術療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法の3つの方法を、単独あるいは組み合わせて治療します。 |
鼻・副鼻腔に出来た腫瘍を鼻・副鼻腔腫瘍と言います。鼻・副鼻腔の悪性腫瘍で多くみられるのは、副鼻腔の中の「上顎洞」という場所(鼻の横奥の辺り)に生じる上顎洞がんです。
症状 | 初期には無症状のことが多いのですが、片方だけの鼻づまりや、膿や血液の混じった鼻汁が長く続くような場合には注意が必要です。また、腫瘍が大きくなると、眼球突出、複視(物が二重に見える)、頬が腫れる、歯茎が腫れるなどの症状が出てきます。 |
---|---|
検査 | CTやMRIといった画像検査が中心です。また、鼻腔ファイバー等による局所の詳細な観察が行われます。最終的には組織検査を行って確定診断をつけますが、腫瘍の発生部位によっては手術的にしか組織検査出来ないケースがあります。 |
治療 | 放射線療法・化学療法・手術療法を組み合わせる方法(三者併用療法)で治療を進めていくのが一般的です。 |
上咽頭は鼻の奥のつきあたりにあり、のど(咽頭)の上部を指します。上咽頭がんは、EBウイルスというヘルペスウイルスの一種が関与して発がんするケースが多いと考えられています。
症状 | 鼻出血、耳閉感(耳のつまった感じ)、難聴といった症状が最初に現れることが多く、また頸のしこりで見つかることもあります。 |
---|---|
検査 | 上咽頭がんの検査は、鼻からファイバースコープ(内視鏡)を挿入してがんがあるかどうかを見ます。さらに、病変が見つかったら、その組織を採取して調べ、それががんであるかどうかを確定します。また遠隔転移をすることが少なくないので、がんが周辺組織にどの程度広がっているのか、また転移があるかどうかを調べるために、必要によりCT検査やMRI検査などの画像検査を行います。 |
治療 | 治療の中心は抗がん剤治療と放射線を併用した化学放射線療法です。場合によっては手術療法が選択されることもあります。 |
下咽頭は食道の入り口にあたり、のどぼとけの内側にある喉頭のさらに奥にあります。ここに出来るがんのことです。
症状 | のどの異和感、のどの痛み、飲み込みにくさ、頸のしこり、声のかすれなどの症状が起こります。 |
---|---|
検査 |
内視鏡などを使って病変があるかどうかを調べる視診と、のどの部分を触って調べる触診を行います。また、病変が見つかったら、それががんであるかどうかを、病変組織を少し採取して検査します。 がんが周辺組織へどの程度広がっているのか、またリンパ節への転移などがあるかどうかを調べるために、必要によりCT検査、MRI検査、超音波検査などの画像検査も行います。 |
治療 | 治療は早期がんの場合、音声を温存する経口的な摘出術や、抗がん剤治療や放射線療法が行われることもあります。進行がんの場合は、抗がん剤治療と放射線を併用した化学放射線療法、あるいは再建手術をともなった手術療法が行われます。 |
喉頭は気管の入り口にある器官で、喉頭蓋(こうとうがい:喉頭のふた)や声帯をもっています。喉頭に出来た腫瘍のうち、悪性のものを喉頭がんと言います。喉頭がんは中高年の喫煙男性に多くみられます。
症状 | なかなか治らない嗄声(させい:声がかすれること)や血痰です。多くは痛みをともないません。 |
---|---|
検査 | まず声がれ、のどの違和感、のどの不快感などの自覚症状を問診によって確認します。その後、視診や喉頭内視鏡検査を行い、疑わしい場合には生検で確定診断をつけます。さらに、頸部エコー検査やCT、MRIなどの画像検査を行って治療方針を決めていきます。 |
治療 | 腫瘍が小さいときには放射線療法が中心ですが、腫瘍が大きい場合には、喉頭全摘出術と言って、声帯を切除する手術が必要になります。ただ最近では、抗がん剤治療と放射線を併用した化学放射線療法を行うケースが多くなっています。 |
唾液腺には耳下腺、顎下腺、舌下腺などがあり、そこに出来た腫瘍を唾液腺腫瘍と言います。唾液腺腫瘍にはさまざまな種類がありますが、良性腫瘍と悪性腫瘍に分かれます。悪性の唾液腺がんにもさまざまなものがありますが、がん細胞の種類によって、おとなしいがんと進行の早いがんに分かれます。
症状 | ほとんどが耳や顎の下の腫れや、しこりです。しこりが急に大きくなる場合や、痛みをともなう場合は悪性の可能性があります。また顔面神経麻痺をともなう場合には、悪性腫瘍が強く疑われます。 |
---|---|
検査 | 超音波検査、CT、MRI、アイソトープ検査などの画像検査や、腫瘍の細胞を採取して顕微鏡で検査する穿刺吸引細胞診が行われます。 |
治療 | 治療の中心は手術です。耳下腺の中を顔面神経が走っているため、手術に際しては顔面神経を傷つけないように慎重な操作が必要になりますが、悪性の場合は、がんを完全に除去するために、顔面神経も一緒に切除することが必要なケースもあります。 |
唾液腺炎はさまざまな原因で生じます。主な原因である細菌性とウイルス性について説明します。
症状 | 急性のものでは唾液腺に痛みや腫れが生じ、導管(どうかん:唾液が出る管)の開口部から膿が出たりします。慢性のものでは唾液腺が硬くなり、唾液の分泌が低下したりします。 |
---|---|
検査 | 問診や局所所見、血液検査を行います。 |
治療 | 急性のものに対しては、殺菌性うがい薬などにより口腔内を清潔に保つとともに、抗菌薬を投与します。慢性のもので口腔の乾燥感が強い場合には、うがい薬や人工唾液を使用することもあります。 |
症状 | 代表的なものとしては流行性耳下腺炎、いわゆる「おたふくかぜ」が挙げられます。ムンプスウイルスの感染によって生じ、一度かかると免疫がついて、再感染はしません。 |
---|---|
検査 | ムンプスが流行している時に発症した場合は、典型的な症状に基づいて診断します。血液検査をすれば、ムンプスウイルスと抗体が特定出来ますが、診断のためにこの検査が必要になることは滅多にありません。 |
治療 | 全身的には安静と解熱薬の投与、局所的には冷湿布とうがいを行います。 |
唾液腺や導管の中に石(唾石)が出来る疾患です。唾石は砂粒大の小さなものから数cmに及ぶものまで、大きさはいろいろです。
症状 | ものを食べようとしたり、あるいは食べている最中に、唾液腺のある顎の下(顎下部)が腫れて(唾腫)、激しい痛み(唾仙痛)が起こりますが、しばらくすると徐々に症状が消えていくのが特徴です。 |
---|---|
検査 | 典型的な症状があれば、口の中の視診や触診により診断が可能です。X線やCTによる検査を行うこともあります。 |
治療 | 小さな唾石は開口部から自然に流出することもあります。口底部にある唾液の導管内にある唾石は、口の中で切開して唾石だけを摘出します。唾液腺の中に出来たものは、腺体ごと唾石を摘出します。 |
リウマチ性関節炎、全身性エリテマトーデス、進行性全身性硬化症や多発性筋炎などを合併する全身性の病気です。
症状 | 口腔乾燥や乾燥性角結膜炎が主な症状です。 |
---|---|
検査 | いくつかの検査を組み合わせて診断の精度を高め、総合的に判断します。検査には大きく分けて、病理組織検査、口腔検査、眼科検査、血液検査の4つがあります。 |
治療 | 現在のところ原因が解明されていないので、この疾患を症状ごとに対症的に治療することは出来ても、治癒には至らないのが現状です |
味がわからなくなったり、味覚が鈍磨したり、本来の味とは違った変な味に感じたりする障害です。
症状 | もっとも多い症状は、味がわからなくなる味覚低下あるいは味覚消失・脱失です。次に多いのは「何も食べていないのに口の中が苦い」などと訴える自発性異常味覚で、味覚低下とともに現れる場合もあります。そのほかに本来の味と違った味を感じる錯味(さくみ)症・異味(いみ)症、何を食べてもおいしく感じられない悪味(あくみ)症などがあります。 |
---|---|
検査 | 味覚検査ほか、味覚異常に関連深い血清亜鉛値、血清銅値、貧血や全身疾患の有無を確認するための血液検査などを行うこともあります。 |
治療 | 亜鉛の補給や舌苔の除去ほか、なんらかの疾患によって二次的に起こっている場合には、それぞれの原因疾患についての治療が必要になります。 |